私にとっての Montpellier
Montpellier は私にとって一種の特別な響きを伴う街です。
モンペリエは、フランスの南側、地中海の西側に面した(どちらかといえばリヨン湾に面する)立地です。古くは13世紀創立の大学町として栄えた歴史と伝統を有し、フランスでは大学町として知られています。人口25万人規模の町でもあり、旧市街と新市街からなる不思議な雰囲気を醸し出す町ともいえるでしょう。ガイドブックにも記載がないか、あっても小さく扱われていることもあり、私も含めて多くの日本人には、「モンペリエ?それどこ?」の感覚でしょう。
今回、旅の計画にモンペリエを組み入れたことは訳がありました。
かれこれ数年前になりますが、モンペリエで仕事をする話が降ってわいたのです。最初はあまり大事に考えていなかったのですが、話が進むにつれて、フランスで働くこと、それもパリでもほかの大都市でもなく、一地方都市であるモンペリエで働く、ということはどういうことか、真実味が帯びてくるとあれやこれやと仕事どころか生活上の問題まで考えが及びました。紆余曲折を経てつまるところ、モンペリエで働くまでには至りませんでしたが、働くかもしれないとの期待と不安を抱えながら走り続けた数か月は、今となってはいい思い出です。
そして思うのです。
もし、あのときモンペリエに移り住んでいたらどんな生活を送っていただろうか、今頃はどうしているだろうか。何とかしぶとくやっているだろうか、逃げ出したくなっているだろうか、などなど想像は尽きないもの。少なくとも数年は自分が生活し、仕事をするかもしれなかった場所を一度この目で見てみたかったのです。そこで、今回の日程でモンペリエから帰国便が飛ぶことを知り、迷うことなくモンペリエを旅の終着点と決めました。
ボルドーで働く友人(日本人)はこういいます。
「フランスは旅行するにはいい国。生活するには言葉がわかればそれなりにいい国でもあり面倒な国。でも働くにはしんどい国だと思う。特に非欧州人にとっては」
彼女の場合、英語は不自由なく、フランス語は買い物や日常会話ができる程度、職場では専門知識がものをいう仕事なのとほかにも外国人がいるので英語で事足りる環境です。日々の仕事や同僚とのやり取りも実に楽しそう。それでも職場の制度も雰囲気もフランス人にとっては当たり前でも外国人にとっては異質すぎることが多いらしいです。煩雑すぎる書類や手続き、分厚すぎる契約書、感情的、ムーディなスタッフ、対応にかかる時間など、聞いていて「それそれ!」と納得するような場面が浮かびます。
モンペリエを歩いてみて、ここで働く自分はピンときませんでしたが、生活するにはすばらしく心地よい街だと思えてきました。万が一にも将来、そういう可能性があればそれも面白いかもしれません。


帰りは空港までバスで行きました。新市街のヨーロッパ広場前のバス停から空港まで20分ほど。この距離で1.5ユーロ(ホテル付近からバス停までは1ユーロ弱のトラム)。街から20分弱で国際空港という便利さに感心していたら、空港についてなんとここでスト発生! 空港会社のカウンターの職員が、「今わが社はストを決行しています。何時にチェックインカウンターが開くかはわかりません」と乗客に対してしれっとのたまふではないですか

たまたま近くにいた、研究者らしいいでたちの日本人グループ数名が猛然とカウンターに問い詰めている様子。どうしてもこの日までに東京に戻らないと行ないんだ、とか何とか言いながら。それをみながら私は、
「お~、おとなしいはずの日本人がこうして主張しているとは!」
「ま、動かないことには仕方ないし、パリ経由で羽田行の便にのれなくなるのは私も含めここにいるみんな同じだから」
というやる気のない思いで眺めていました。フランスのストに一喜一憂してもせんないことです。
一方、もしこれで飛行機が飛ばなければ、このモンペリエにもう1泊するチャンスかも?!


今回の旅は大変いい気分転換と骨休みとなりました(私は根が怠けものなのか、仕事と仕事の間にしっかりと休みをとることが必要な性分のようです)。総じて、フランスの5月はいい季節です。ただベストシーズンは6~7月ではないでしょうか。5月と言えばまだ寒い地域も多く、一日のうちでも天候がよく変わることもあり、防寒具の用意までするのは大変です。と思えば、スカーフ一枚でしのいだ今回は知らずに来て良かったかもしれません。もう一つ、8月のハイシーズンへ向けて、修復中の建築物が多いのも4~5月の時期ではないでしょうか(今回でいえばベルサイユ宮殿の庭園、一部の大聖堂、モンサンミッシェル修道院)。もし時期を選べるのであれば6月以降がいいでしょう。ただ、冬のパリも捨て難いように、どの季節でも楽しめるのもまたフランスの魅力だと思われます。何よりいろいろなワインが楽しめ、モンペリエで食した白ワインがそれはそれは美味でした。
ワインや食、芸術や文化、宗教と歴史、建築、海に冬山、人によってはおそらくショッピングとフランスのいたるところで楽しむことはできるでしょう。しかし私にとっての最大の魅力は、日の長さとほぼ何も気にせず街を一人ででも歩けること。水、安全、外歩き、服装、ホテルでお湯が出るかどうか、かばんは何をどう持つか、支払い時のクレジットカードが返ってくるか、街で道に迷ったとき地図をどこで開くか、などなど――これまでの出張ではこうした警戒と気疲れを無意識のうちにしていましたが、フランスではこの手の苦労がなきに等しく本当に楽しかったです(実はパリでもスリが多いと思っていたので内心拍子抜けしたほどでした)。またいつかフランスを再訪したいと思います。次回こそはニースかシャモニあたりを目指して

これでフランスの旅記録を終えたいと思います

また明日から日常が始まります
