ワンガリの思い出


ワンガリ・マータイさんの訃報が飛び込んできたのは、26日月曜の夜の twitter だった。まだそれほど高齢とは思えなかったので、驚きを隠せなかった。報道によれば卵巣がんで、一年前、米国の病院で手術を受けていたが再発し、この日曜にケニアの病院で亡くなったという。

実は、幸運にも彼女に会う機会が昔のことだがあった。

ワンガリに初めて会ったのは2002年の春学期の始まる1月だった。その頃いた米国の留学先に、ワンガリが客員教授として着任した。私にとっては初めてのアフリカ人女性だったし、それまでワンガリのことは何も知らなかった。当時の学部長が招いた人、という程度の認識だったので当然、彼女のこれまでの仕事も経歴も、偉大さも、恥ずかしいほど何も知らなかった。それでも、彼女のオーラや人間的魅力は人の心を捉えて離さない何かがあった第一印象を、昨日のことのように覚えている。

もともと環境に負荷へ与える途上国の開発に対する興味がもとで私は留学していたので、迷うことなくワンガリの授業をとることにした。といっても授業内容は、ほとんど彼女の経験、すなわちケニアでのグリーンベルト運動をどのように始めたか、どんな状況でどんな障害があり、何を考え、どう乗り越えてきたか、また何が課題として残りどう対処していったか、といった内容だ。彼女が話しながらクラスでディスカッションが続く形式の授業で、そうした授業を重ねていくうちに、自然と彼女のこれまで歩んできた驚くほど大変な道のりについて知り、クラス全体が圧倒されることになる。そのクラスの学生は25人ほどで、これは一クラスのサイズとしては大きい方だと思うが、大半が女性だった。

授業は坂の上にある Marsh Hall という建物の一階スペースで行われた。彼女のオフィスも Marsh Hall 内にあり、何度かオフィスアワーの機会には通ってはアドバイスを受けたりもした。ワンガリは、会うたびに違う色のアフリカンドレスを身にまとい、いつも目が輝いていた。私たち当時の学生は、ワンガリの人柄、そしてグリーンベルト運動とともに歩んできたまさにへこたれないワンガリの精神と情熱に敬意と親しみをこめて、彼女をワンガリと呼び続けていたし、それが彼女の希望でもあった。

ところで米国の大学の卒業式は、卒業生の門出を祝う一大イベントでもある。その目玉のひとつがゲストスピーカーで、いわゆる祝辞なのだが、そこはスピーチの国、「スピーカーが誰で何を話すか」がすごく注目される。そうした期待を込めながらスピーカーを選ぶのも学生なのだ。その年のゲストスピーカーはまさにその場にいたワンガリで、2002年の卒業生とその家族に向け、お祝いと魂の込もった熱いメッセージが送られた。確かにワンガリはあの頃からオーラがあった。それでも学期の初めに会ったワンガリと、卒業式のワンガリはまた、違ってみえた。明らかに、最初に比べて緊張感もとけ、互いの距離が縮んだだめかもしれなかった。米国の大学の卒業式にはまた、普段は離れて暮らしている家族や両親、恋人が駆けつける。そのため大学周辺のホテルには予約が殺到し、大学街は5月半ばから下旬がハイシーズンとなる(これは入学シーズンの9月も)。その時、私の家族も来てくれ、卒業式でワンガリと一緒に写真に収まったことも、今となっては貴重な思い出である。

ノーベル賞を受賞したのはそれから数年後のこと。その時思ったのは、本当によかったという嬉しさと世の中には正義があるんだという思い、加えてきっとこれからますます有名になるんだろうな、という淡々と思いだった。2006年頃にあるケニアの大学生と雑談中に期せずしてワンガリの話を聞いたことがある。彼曰く、「ワンガリ・マータイはノーベル賞をもらっても環境大臣になっても、日々の生活や人との接し方は何ら変わっていない。同じ家に住んでいるし、それまで通りの生き方をしている」
いかにも、自分のルーツを大切にするワンガリらしいと思った。

グリーンベルト運動は、簡単に言えば、環境保全を目指して行う植林活動で、それが女性のエンパワーメントや持続可能な開発につながる。グリーンベルト運動と、政治的な圧力をはじめ苦難が多かった歩みは、ワンガリの自伝『へこたれない』にも詳しい。日本では、「もったいない」を国際的に呼びかけたマータイさん、として知られているが、ワンガリの原点は土地や自然資源への愛着であり、それがそのままグリーンベルト運動の原動力でもあったのだ。

最初にも書いた通り、自分にとって初めて会うアフリカ女性だったし、私の会ったワンガリは一学期限りの先生でもあったから、あまり彼女の個人的なことまで知る由もなかった。今思えば、ワンガリは私の母親と同じ年齢だった。米国滞在中は娘さんがワンガリを訪ねてきたこともあったと記憶している。あの頃がワンガリにとって最も自由で心安らぐ時期だったかもしれない、と思いたい。

彼女の人生と教え、そしてケニアへの思いと情熱に敬意を表し、合掌。

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Sainah

Author:Sainah
仕事&興味:途上国と開発援助 [セクター] 農業・自然環境・生態系
少数民族、伝統文化、科学・技術、時間管理、組織マネジメント、外国語(☜ 日本語とあわせて日々奮闘中)、海より山、温泉、古いもの好き、ABBA、中島みゆき

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