シリアの思い出(4) 2006年11月


一度は諦めかけたレバノン行きの状況が好転した。

会議のロジ全般を担当しているICARDAの職員Zukaにビザの件を聞いてみると、「ここではビザを取るには丸二日かかるの。しかも金曜日は休みなのよ。レバノン行きについて、最初に言ってくれればどうにかできたと思うんだけれど」と残念そうに言われてしまう。そう、シリアでは金・土が週末になるので、平日は木曜まで。その日は確か水曜だった。Zukaをしても無理なら本当に無理なんだろう。ここで二度目の諦めに入る。

するとそこに思いがけず K 先生登場。すかさず近くにいたICARDAの男性職員(visitor 担当だったことがあとで判明)に「ちょっと聞きたいんだけれどレバノンへ行くのは難しいのかな。彼女は土曜日に友達に会いにレバノンに行く予定だが、シリアに戻ってくるにはビザが必要でね」と話して下さる。即座に We will work on it. と力強い返事。耳を疑ったが、改めてK先生の偉大さを感じお礼を申し上げる。「ICARDA はこの国ではかなりの力を持っていますからね。何とかしてくれると思いますよ」

その言葉通り、昼休みにはビザ申請に必要な両親の名前を聞かれ、必要な顔写真もパスポートの写真をスキャンして用意してくれる。そのまた1時間後には、全て上手く行っているので明日午前10時には届くだろう、とZuka。感謝感激しながらこの速さに舌を巻いていると、K先生も「ここは動きが速いですからね。日本の某職場よりはるかに仕事が速い」と仰っていた。K先生が度々シリアに行く理由が分からなくもないと思った。

繰り返すが、繰り返したくもなるほどICARDAのスタッフの仕事は速い。例えば、前日のエクスカージョンについて、今朝一番に「ジェンダーの視点が少なかった」とのコメントが出た。すると一時間後にはICARDA内でジェンダーサイドのプロジェクトを紹介するツアーを主催者が組んで、アナウンスする。ジェンダーが少ないと言ったのはエジプトからの参加者、ボシュワという女性。押しも強く早口でまくしたて、どのセッションでもどの議論でも発言しない時はないほどだ。参加者には男性が多く(しかもイスラム系や中国の男性が大半)、この意見に敢えて口をはさむ人はいない。

ジェンダーに関して私はこう思った。ジェンダーも大切だが、地域のリアリティもある。農村とは往々にして男性社会だし、表向きはそうでも日々の生活では女性が仕切っていることも多い。そういう現実を、一日のエクスカージョンで見るほうが無理なのではないか。たとえみたとしても私は懐疑的にならざるを得ない。ここはシリアである。シリアの農村社会でどうやって女性の活動を、ポッとバスで訪れたよそ者がみられるだろうか。しかも彼は我々の訪問の目的を解していなかった。となればむしろ、そのような例を目にしなかったことが自然でありリアリティを反映しているはずだ。と言いたかったのだが、そんなことを弾丸ボシュワの前で言えるはずもなかった。



夜はICARDA主催による地元のレストランでの食事会。

ディナーは由緒ある建物を改造したというレストランの地下で行われた。もちろん、チーズやらオリーブを中心としたシリア料理である。目の前に並んだ料理をみながら、中学生の頃に教科書で習った、「地中海性気候の地域は、降水量は少ないが比較的温暖な気候。オリーブ、柑橘類などの農作物が豊富にとれ・・・」といった教科書の記述を前に思い出す。あの頃は、その地域での生活というものがピンときていなかったし、教科書以上のことは何も想像できないでいた。しかし、こうしてその地に来てみるとなるほど、と思うとともに、想像にも幅が出てくる。地形や地理的条件は住む人の生活を決め、時に歴史を形成し、社会の基盤となっていること、そして乾燥地帯にはそれなりの農作物や生きる知恵があり、生活している人々がいることー昼間のエクスカージョンを思い起こしたりもしながら、どれをとってもまことに興味深かった。

何も用意してこなかった私以外の女性はみな着飾って登場。こういう時にK夫人の着物は映え、私まで日本人の誇りを感じてしまう。あのボシュラもあでやかな服に身を包んで登場。周囲にヨルダン勢がいるせいかアラビア語で話しているし、目が合うたびに笑みかえされてもちょっと恐かったり(?)。また、エクスカージョンで話して以来、意気投合したICARDAで働くハナディも、目の覚めるような黄色のドレスに身を包み、まるで別人のようである。ドイツで学位をとりICARDAに来て3年目の彼女は、母国スーダンに住むご主人とは毎日電話で話しているという。
「朝晩二度話すこともあるけれどたわいのない会話ばかりなのよね。だから電話代はものすごいわよ」
「ICARDAで働けるなんてすごいわね。どうやって今のポストを得たの?」
ポスドク研究員とはいえ、国際レベルで乾燥地帯の農業研究を進めている研究所は少ない。それだけポストを巡る競争も激しくなる。
「学位をとって国に帰ろうと思っていたんだけれど、空席に応募したのよ。結構競争激しかったのよ、このポスト。最後に残ったのは日本人とイラン人と私だったんだけれど、運良く採用されたというわけ」
スーダン人の彼女がアラビア語を母国語とすることと、もしかして女性であることも決め手のひとつになったのかもしれない。

こういうよもやま話も交えながら会は進み、夜が更けていく。不思議なのは、この食事会、流れが成り行き任せというか、何の乾杯もスピーチもなく淡々と始まったことである。どこに座るかは各自の自由とはいえ、一体いつ食べ始め、いつ去っていいのか皆目わからなかった。最後のお茶が終われば三々五々に散っていった客もいたが、私はそれでもその場を立ち去れず主催者が立ち上がるのを待って、一言お礼を述べて帰った。お礼を言わずに無言で去ることなど、日本人すぎる私には到底できない芸当だった。



食事会を終えてホテルまで歩いて10分ほど。皆で連れだって、マーケットを通りながらホテルに戻る。11月ということもあり、夜道のアレッポは肌寒い。冬支度をしている街の様子から冬の厳しさが伺える気さえした。

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プロフィール

Sainah

Author:Sainah
仕事&興味:途上国と開発援助 [セクター] 農業・自然環境・生態系
少数民族、伝統文化、科学・技術、時間管理、組織マネジメント、外国語(☜ 日本語とあわせて日々奮闘中)、海より山、温泉、古いもの好き、ABBA、中島みゆき

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