ダマスカス→ベイルート シリアの思い出(6)


シリア行きの中でも今日は、オマケと呼ぶには軽すぎるほどの、番外編ベイルート行きである。友達カレンに会いに行くためのレバノン行きはしかし、シリア滞在中に決まったので心の準備が追いついていなかった。本当にベイルートに行けるのだろうか、シリアとレバノンは緊張があるのにシリアに無事帰ってこれるだろうか。いかにも中東に不慣れで単独行動している日本人女性は、狙うには格好の相手ではなかろうか。

そんな私の不安を知ってか知らずか、タクシーのドライバーは、8時きっかりにロビーに待っていた。私の彼への信頼の依って立つところは、友達カレンの会社のベイルート支所を通して予約したタクシーである、というただ一点のみである。このドライバー、走り出して間もなくどこかのアパートに寄って荷物を積んだり、軍服に身を包んだ友達を途中でピックアップしたりと、本業ついでに忙しい。若き兵士は途中一部区間を同乗するが、彼らの会話は当然何もわからない。シリアの演歌だろうか、ラジオから流れる音楽をバックに、途中 UNRWA のサインがみえるが、シリアも含めて街中でUNの文字を見たのは初めてである。

間もなく、車窓に広がる乾燥地帯の赤茶色の山々のすそのに細かく点在する家々、といった一枚の絵のような光景に、思わず目がくぎ付けになる。その後40分ほどで国境着。ドライバーは国境手続きもすべてしてくれ、私は車で待っているのみ。空気を吸いに外に出てみるものの、国境付近はやはり気安く歩ける雰囲気もなく、また日本人が珍しいのかすごい視線を感じ、平静を装いながらも内心慌てて車に戻る。関門所の近くにシリア観光省の建物があるが、とても観光気分とはいかない。この情勢の中、無事の再入国をひたすら祈りながらの出国である。アレッポにいた時、急に決まった国境を越えたレバノンはベイルート行きについて、K先生はじめ何人かには「レバノン行きは大丈夫ですよ」と言われたものの、一人だけ「どうしてまた。私だったらそんなリスクはおかさない」と言っていたICARDAの男性職員の言葉を思い出す。彼は英国人だったと思うが、シリアに住んで長い。しかもシリア女性を結婚していてこのセリフである。何かあったら彼の言う通りだ。

ベイルートに向かう道(ダマスカス市内)        国境の関門所
1+to+Beirut.jpg 2+to+Beirut.jpg


朝9時過ぎレバノン入国。ベイルート近し、やっとカレンにも会える、と胸が弾むものの、それからが大変な山がちの道が延々と続く。予定通りカレンがシリアに来てくれるとすればこの道をくるのであろう。この道を若いカレンに運転させなくてよかったとも思った。ベイルートの町が遠くに見えてもなおひたすら山道を下っていく。ところどころにみえるのは7月のイスラエルの攻撃を受けた跡地であると、ドライバーとのたどたどしいやりとりで理解する。この辺に関する知識といっても、古くはチグリス・ユーフラテス川、下って十字軍、オスマン・トルコやアラビアのロレンスしか知らない私には、この地域で続く内戦や緊張関係の背景への理解ができていない。朝9時45分、シリアに来て(いやここはレバノンだが)初めて教会の建物が目に入る。やはりここはレバノンなのだ。

目的地に近くになったのか、ドライバーがカレンの番号を聞いてくる。彼はシリア用とレバノン用の2台の携帯を持っており、運転しながらも器用に使い分けている。カレンとつながったのだろうか、しきりに話しているが目的地Charles Helouらしきところを通り過ぎてもまだ車は走り続ける。この人私をどこへ連れて行くのだろう、アラビア語はわからないしここはレバノン、再びいろいろな不安がよぎる。私の思いを見透かしたかのように、ドライバーにEverything is OK. と不意に声をかけられ、余計に心配になる。OKと言われても、すでに右手には海が広がっているではないか。明らかにカレントの待ち合わせ場所のCharles Helouを通り過ぎてベイルートの中心を走っている。かと思うと、行き止まりの道に入りバックしかけて後ろの車にぶつかっている。それでも我がドライバー氏は窓を開けて失敬と手を上げるのみ。日本だったら、血相変えて双方の運転席から人が降りてくるものを。さらに、車は左に右に曲がり進んでいき、町の小さなガソリンスタンドで止まる。余計心もとなくなるではないか。私を不安に陥れるには十二分なシチュエーションである。と思うと誰かがドライバーと話している。カレンだ!

「ハ~イ、Sainah!Welcome to Beirut!」
「カ、カレン…」
緊張の糸が解けてもまだ拍子抜けしている私。思わず声がうわずっている。

「みて、ここが私の育った町よ。このアパートには今両親が住んでいるの。私もここで育ったの。今は市内の別のアパートで一人暮らしだけれどね。でも7月の戦争以来しばらくは両親のところで過ごしたの。何かあったら家族一緒のほうが安全でしょ。このガソリンスタンドはね、毎日立ち寄るまあ私の庭みたいなものよ。ドライバーから電話がかかってきた時はまだ私シャワー浴びていたの。だから家まで来てもらっちゃった。私の車はあっち。さあ行きましょう。今日はいろいろスケジュールがあるのよ。まずはね」

私の気持ちをよそに、カレンは事も無げに話し続ける。しかも昨日会ったかのように。クラスメートとはそういうものか。

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プロフィール

Sainah

Author:Sainah
仕事&興味:途上国と開発援助 [セクター] 農業・自然環境・生態系
少数民族、伝統文化、科学・技術、時間管理、組織マネジメント、外国語(☜ 日本語とあわせて日々奮闘中)、海より山、温泉、古いもの好き、ABBA、中島みゆき

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