つかの間のベイルート シリアの思い出(9)


カレンの友達ドナの車で一行は移動する。車内に5人ともなれば放っておいてもにぎやかだ。みなそれなりに英語を話すから、少なくとも話そうとするから、意思疎通もできる。たとえ大して英語を話せなくても、臆することなく話し始めるところが日本人とは違う。

ベイルート市内のある道路に差しかかった。車が数珠つなぎになっている。
「みてよこの道路。もともと5車線なのに、7月のイスラエルの攻撃で道の一部が破壊されたでしょ。だから今は一車線しか通れずにこの渋滞よ。だからみんなイスラエルに怒っているの。」
We are angry with them. カレンが言うと
No, we aren't. とすかざす友人のジャドが語気を強める。
Yes, we are.
No, we aren't.
Yes, we are.
 ・
 ・
 ・
こんなやりとりがしばらく続く。

車中に私以外にレバノン人が4人いるのに、聞き流すのでもなく真剣に取り合うのでもなく、かといって誰もとりなすことなく、ただ聞いている。ここで、「分かった。カレンはイスラエルに怒っているけれど、ジャドは別の考えなのね」と、新参者が割って入るには大真面目に言い合っている。それもまだ続く。
No, we aren't.
OK. But I am.
ようやくリズミカルなカレンの言葉で一応ケリがつけられた。

続いてカレンが説明してくれる。
「この国ではね。何かあるとすぐ政治の話になるの。みんな政治に関しては一家言もっている。そしてそれぞれが違う見解なの。だから誰もが口を開くの。黙っちゃいられないのよ」

ふ~ん、と思いながらそれはいいとしても、この時はジャドがなぜここまでヒズボラをかばうのかわからなかった。ジャドは眼光は鋭いが愛嬌のある性格。IT関係の仕事についているというから、政治に肩入れしている風にもみえない。しかしシリアのこととなると必ず出てくる。まあここは中東だし、おそらく日本人には理解しがたい壁があるだろう、とその時は別段気にもしなかった。

「でもね、それがこの国なのよ。背景となる宗教も違うしね。私はモスリムだけれど、カレンはクリスチャン、ドナとジャドもクリスチャン。でもこうやってソーシャルライフは一緒に楽しむのよ。レバノンではね、ソーシャルライフに休みはないの。イスラエルの攻撃の時だって、仕事は機能せずオフィスもお店も一ヶ月休みになったけれど、それでもソーシャルライフはあったのよ。だって爆撃におびえて家に閉じこもっていても、ニュース聞いて欝になるだけでしょ。だから友達と会ったりパブに行ったり、毎日何かしら楽しんだわよ。思いっきりというわけにはいかなかったけれどね」



「ねえSainah、ベイルートに来てくれてありがとう。あなたがここまで来てくれたことが本当にうれしいのよ」
二人になった時、不意にカレンが口を開いた。
「日本でどのくらい聞いているかわからないけれど、最近、この国もいろいろあってね。何かと落ち着かないのよ」
実は表面的なニュースを聞いただけで、殆ど何も知らない。日本の報道ではスリランカの民族紛争の方が主に取り上げられていた気もする、と言っても弁解にもならないので黙っている。

「レバノンとシリアの対立も根深くてね。つい最近、レバンノンの反シリア派の大臣が何人か辞任したりして、レバノン人の私が国を出るのはよくない気がしてきたの。シリア国境で何かあって帰って来れなくなるんじゃないかって、両親も私のシリア行きに反対でね。だから無理を承知で、あなたに来てくれないか頼んだの。出張で疲れているだろうに、ここまで来てもらうのも悪いなと思ったわ。でもアラブ人でもなく外国人のあなたなら問題ない、何かあればサトルも助けてくれるかもしれないとも思ったのよ」

サトルとは当時日本大使館職員としてレバノンにいらしたYさんのこと。ICARDA滞在中にレバノンの日本大使館に電話して出られたのがYさんだった。その時、「つかぬことをお聞きしますが、もしかしてカレンさんとお会いになるんですか?」と聞かれたのだ。そして、何とカレンと先週会っているということだった。面白いことに仕事であったのかと思いきや、金曜のパブで会ったとか。友達と三人連れのカレンが、一人で来ていたYさんに話しかけて言うには、「ハイ、私カレンです。日本大使館のひと?そうなんですか。来週私の日本人の友達がシリアから来るんです」と話しかけたというのだ。もしかしたら、私が電話したときYさんはすでにカレンから聞いていたのかもしれない。

そのYさんもヒズボラ遺跡から「ツアー」に合流した。「本当はカレンのような人にうちの大使館でも働いてほしいんですけれどね」と言われる。Yさんの気持ちもわからないでもないが、カレンには大使館の仕事を任せるのもまた勿体ない、とも思ってしまう。

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プロフィール

Sainah

Author:Sainah
仕事&興味:途上国と開発援助 [セクター] 農業・自然環境・生態系
少数民族、伝統文化、科学・技術、時間管理、組織マネジメント、外国語(☜ 日本語とあわせて日々奮闘中)、海より山、温泉、古いもの好き、ABBA、中島みゆき

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