ダマスカスへの帰路―シリアの思い出(10)


シリアのダマスカスからレバノンのベイルートへ来たのはその日の朝のことだったが、数日前のことのようにも思える。カレンとみんなと過ごした時間は、楽しい会話と少しの観光を詰め込むだけ詰め込んだ一日だった(おいしさをぎゅっと濃縮したマンゴジュースのように)。それでも明朝のダマスカス発の便に乗るため、私はその日のうちにシリアに戻らなくてはならない。

ビブロスからベイルートはまた少しある。小一時間はみておかないといけない。ジャドたちお勧めのお店で早い夕食をとり、レバノン料理を楽しんでからベイルートに向かう。しかしダマスカス行きのタクシーがなかなか見つからない。いつでも電話してと言っていた行きのドライバーは、週末だしもう帰ったのだろう。案の定、電話かけどもかけどもつかまらない。ダマスカスまで行く車がみつからず、本当に今日中にダマスカスまで帰れるのだろうか。そんな不安が顔に出ていたのか、カレンも日本人のYさんも送りましょうかと有難いお申し出。それとて国境までだし、あの道を往復させるのはいかにも忍びない。

結局、Charles Helou まで行き、そこでタクシーをつかまえることにする。Yさん、ジャド、ドナと途中で別れ、二人のカレンが送ってくれる。Charles Helou は、米国のダウンタウンにある大型バスグレイハウンドのバスティーボを彷彿させるようなところ。今朝来る時は待ち合わせ場所の予定だった Charles Helou だが、そこを通り過ぎてカレンの家近くまで連れて来てもらった。実はそれが安全面からもよかったのだと、夜の Charles Helou をみて思った。Charles Helou までくればタクシーはすぐにみつかったものの、相乗りタクシーだった。しかも私が最初で、ほかに数人ダマスカスまで行く人が現れるのを待つ破目になる。夜8時過ぎ、結局ドライバーを含むアラブ人男性3人と一緒に国境を越えることになる。

私はまた見知らぬドライバーにダマスカスまでの運命を託すしかなかったが、カレンが全て交渉してくれる。行きは同乗者なしで35$だったが、帰りは相乗りでひとり15$。二人分の席を確保したければ30$と言われる。カレンに二人分の席を確保した方がいいと言われ、迷う間もなくその通りにする。同乗者の一人は中年のおじさんで、もうひとりはアレッポに帰る若者。どうも彼らが15$払うようにはみえない。そのうち彼らは車内で煙草を吸い始める。窓ガラスのとってつけがよくないタクシーで、寒いので窓を閉めてもらった上に、もともと煙草の煙が苦手な私としてはたまらない。でも言葉も通じないし、たとえ通じてもここはアラブ、アラビア語も解さない女1人で男3人相手にモノ申す元気もない。そこで手荷物をしっかり抱えながら目を閉じひたすら眠る(ふりをする)。ふりのはずが本当に寝てしまったらしい。

まず、国境を越える時に起こされる。ここでは、外国人でもアラブ系外国人(シリア、ヨルダンなど)かそれ以外の外国人かで、手続きの窓が別れている。しかもそこにいる担当者はみな男ばかり。夜だし、アジア人どころか外国人もいなく(要は皆アラブ人)、妙に怖くなる。軍服姿の係員が唾を吐き捨てながら作業するので余計に気分悪くなる。こわばった顔をしているのもよくないが、ここで笑顔を見せるのもヘンな気がして、どうしていいかわからず所在なくしていたと思う。家族も心配しているだろう、ここで何かあったら日本でニュースになるだろう、などと思えてますます心細くなる。

寒い夜空下の国境で、私がほしかったのはシリアへの入国許可のみ。女性がアラブ世界で生きるとはどんなものなのか、アラブに生まれれば幼いころからどんな人生観を持って生きていくのだろうか、等々考えるうちに赤いパスポートを目の前につき返される。そこからは行きと同じ山道をひたすら走る。

次に起こされたのはダマスカスに着いた時で、二人の同乗者はもういなかった。ドライバーに30$渡すが見もせず無造作にポケットにしまうので、25$でも20$でもよかったのだろうかと思ったりもした。そのタクシーはレバノンから来たため、シリア(ダマスカス)の特定の場所までしか行けないことになっている。そのためホテルまでのタクシーを捜してもらう。
「ここからだとホテルまでは2$だよ。いいかい?」
「いいえ1$で行けるはず」なぜか直感的にホテルは近いと思った。
「じゃあそれでいい」
値段の決め方はかなり適当だが、1$でも高いような近さだったのには拍子抜けした。そのままホテルの前まで行ってくれたらよかったものを、と思いながらタクシーから降りると、ぎょっとするような兵士の群れがホテルの前にいる。デモでも始まるのか、あるいは祭りなのか、見当がつかなかったが、ホテル前に白い制服に帽子をかぶり、フセイン(当時のイラク大統領)の好きそうな槍をもったグループがホテルの前に立っている。まるで立ちはだかっているようだ。恐怖心を見せないように平静を装って、祈るような気持ちで彼らの前を通り過ぎ、ホテルの回転ドアを通る時も後ろを見ず、ひたすら部屋に急ぐ。

かくして、ドキドキのベイルート行きを終え、何とか無事、ダマスカスまで戻ってきた。
明日は朝5時にホテルをでなければならない。

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Sainah

Author:Sainah
仕事&興味:途上国と開発援助 [セクター] 農業・自然環境・生態系
少数民族、伝統文化、科学・技術、時間管理、組織マネジメント、外国語(☜ 日本語とあわせて日々奮闘中)、海より山、温泉、古いもの好き、ABBA、中島みゆき

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