共同受賞の意味するもの


今年のノーベル医学・生理学賞に京都大学の山中教授が決まったニュースで、先週の日本は沸いた。先月だったか、数学の難問「ABC予想」を解明してネットで発表した京大の数学者の話もそうだが、一日本人として喜ばしく心底誇らしく思うのは、まさにこういう瞬間、自然科学や技術での日本人の活躍や快挙を知るときである。それは、誰が何を言おうと、どんな難癖をつけようと、仕事を成し遂げた動かしようのない証が示されるからだ。



アメリカPBSニュースで、このニュースを受けて次のやりとりがあった。
以下は、キャスターと専門家のやりとりだ。

- ガードン氏と山中博士の研究により、細胞が人体の中で分化するメカニズムに対する理解が変わった、ということですが、幹細胞の機能に対して、それまでの科学界のコンセンサスはどのようなものだったのでしょうか。
- 細胞も私たちの人生と同じようなものだとみられていました。つまり、私たち人間は、最初は大きな可能性を秘めていますが、どの分野での専門性をもつようになるかは明確ではない。しかし大人になるにつれていろいろな選択をすることで、それぞれが人とは異なる専門性をもつようになります。幹細胞も同じだと考えられていました。最初は体の中のどんな細胞になり得るポテンシャルを持っていますが、だんだんとその働きが特定になっていき(分化のこと)、しかもそれが一方通行だと考えられていました。つまり皮膚の細胞なら皮膚の細胞のままで、ほかの細胞にはならないと考えられていました。そうではない、細胞の分化は一方通行だけでないということを二人は示したのです。

この上で、キャスターは次のように問いている。

― 二人の受賞者が共同研究者ではないということはよくあることですが、今回は二人の発見が40年も離れています。この二人の研究はどのように関連するのでしょうか。

これはとても面白いですね。山中さんはガードン卿の研究成果が発表された年に生まれているので、世代も全く違うし研究の焦点も全く違います。ガードン卿は50年代から60年代にかけて当時、世界の関心を集めていた問題について研究していました。当時ちょうどDNAが発見されたばかりで(1953年)、生命の暗号であり細胞の成長の可能性を示すものだと考えられていました。しかし、DNAが安定した物質であるかどうかは不明でした。細胞が体の中の特定の細胞や臓器の細胞になると、それにしたがってDNAが変化するのかどうか、受精卵の時と変わるのかどうかということが問われていたのです。

そこでガードン氏は成長した細胞核の中のDNAを卵の細胞質に移植するとどうなるかという実験をしました。その結果、成長した細胞の核がプログラムし直して、初期設定して逆戻りできる、受精卵の段階に戻りどんな細胞にもなりうる(分化する)ことを示しました。つまり細胞には柔軟性があるということです。この問題は当時、研究者の中心的な関心ではなかったわけです。興味深いけれど実質的な応用があるかわからないと言われていました。それが注目されるようになったのは、体性幹細胞、ES細胞が使える可能性が出てきた数十年後のことです。ES細胞でなく他の細胞で万能細胞ができるということになればどうなるのかと、そこで大胆な実験をしてそれが実現できることを証明したのが山中さんです。どの実験室でもES細胞と同じような万能細胞を作れるという単純明快な方法があるということを示したのです。



ため息がでるような説明ではないか。生物を学んだ高校生なら十分理解できる内容だ。細胞の文化を人生にたとえるのも意外とわかりやすい。

山中さんとガードン氏の共同受賞が何を意味するのか、「ガードン先生の共同受賞が一番うれしい」と山中先生自ら話す背景にはどういう意味があったのか、がよくわかる。

このくらいの報道を、日本のメディアもしてほしい。ここ数日、静かににぎわっているiPS細胞の研究者の虚偽の研究報道よりも、こうした科学的意味について考える姿勢が、日本の新聞の科学部ですらみられないのはなぜだろう。山中さんが日本人でなかったら、この受賞の報道の扱いももっともっと小さくなっていただろう。

科学に国境はない。偉大な仕事は分け隔てなく科学史に刻まれていくのみなのだ。芸術も同じだ。ひょっとして、どんな分野でも偉大な仕事はそういえるのかもしれない。

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Sainah

Author:Sainah
仕事&興味:途上国と開発援助 [セクター] 農業・自然環境・生態系
少数民族、伝統文化、科学・技術、時間管理、組織マネジメント、外国語(☜ 日本語とあわせて日々奮闘中)、海より山、温泉、古いもの好き、ABBA、中島みゆき

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