ベトナムで思い出す本


ベトナムと聞いて必ず思い出すのが、『サイゴンから来た妻と娘』である。この本には、著者の日本人男性がサイゴン赴任中にベトナム人の妻子を得たことによる生活上の驚きと変化、発見や観察が余すところなく描かれている。作品の中で繰り広げられる家族のやりとりや出来事を通して様々な問題が炙りだされ、時にその問題は読者にも突き付けられる―それはベトナムと日本を軸とした比較文化論だったり教育論だったり、祖国を失ったベトナム人の信条や生き様だったり、はたまた著者の若いころの日本やフランスでの生活で直面した出来事の余波だったり。この多面性こそが読者をぐいぐい引き込み、本書を読ませる作品に仕立てあげている。

著者の近藤紘一さんはサンケイ新聞記者として、ベトナム戦争時にサイゴンにおり、ベトナム人の生活と共にサイゴン陥落、南ベトナムの終焉を目撃した。常日頃から「オレは人間を描く」を口ぐせだったらしい。それだけに視点もベトナム社会に対してまっすぐ向けられ、ベトナム人の価値感、宗教観など庶民の考えや下町の様子などを紹介したことで、普通の海外旅行記や海外生活の記録とは一味もふた味も違った切り口になっている。もちろんこれは身内にベトナム人の妻子がおり、物語のどの部分も妻子の行動を軸に展開しているからだが、それだけではない。そこに近藤さんの記者としての観察眼、日本人としての視点、過去への思いが重なり、時にホロリとしながら読ませ、可笑しくも哀しさの残るしっとりした味わい深い作品になっている。

登場人物のユンこと近藤ミーユンちゃんは、近藤さんに会った時はまだ10代はじめの少女だった。『サイゴンから来た妻と娘』は、新しい家族との絆と娘ユンの成長の記録でもあるが、何より近藤さん流の家族愛の表現でもあったと思う。『バンコクの妻と娘』『パリへ行った妻と娘』をあわせた3部作には、一貫して近藤さん流のユーモアあふれる筆致で、妻と娘の新しい生活への適応、ベトナム人魂、生きる力、日本人の世界観が、余すところなく記されており、いずれも大変印象に残る作品である。
『サイゴンから来た妻と娘』
『バンコクの妻と娘』
『パリへ行った妻と娘』
3部作としてまとめて読むとさらに楽しめるので、ぜひおススメしたい。

近藤さんは新聞記者だったから、もちろんニュースを追う記者の仕事が中心だったろうが、私はこの本を入り口に次々と彼の本を読んだこともあり、もの書きとしての近藤紘一氏しか知らない。ただ、それでも、これだけ読ませる書き手である近藤紘一氏なら、署名入りの記事を随分書いたのではないかと思う。また、同じく今は亡きジャーナリストの千葉敦子さんの著書にも、近藤紘一氏の訃報を聞いて入院していたことを聞きながら見舞いに行かなかったことを悔やむくだりがあった。二人は、戦後の昭和という同時代を駆け抜けた記者仲間だったに違いない。

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Sainah

Author:Sainah
仕事&興味:途上国と開発援助 [セクター] 農業・自然環境・生態系
少数民族、伝統文化、科学・技術、時間管理、組織マネジメント、外国語(☜ 日本語とあわせて日々奮闘中)、海より山、温泉、古いもの好き、ABBA、中島みゆき

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