ユンちゃんについて


ユンの母であり近藤さんの妻となるナウさんはベトナム魂の塊のような女性らしい。8才で家の手伝いでものを売り始め、娘ユンの年頃(13、4歳~20歳)にはすでに、野菜や魚の仲買いをしたり、トラックを雇って運送業を手掛けたり、大衆食堂や一杯飲み屋を開いたりと、「母親譲りの商才」を発揮していたらしい。南ベトナムで戦乱の世に育ったとはいえ、十代の一番いい時期を、自分と家族のために能力だけを頼りに生きてきたことになる。戦火の中自力で生き抜いていくには他人に依存せず生きていく逞しさ、賢さ、度胸、そして時に喧嘩もいとわない激しさが必要だった。そうした育ちの環境のせいか、自立していない女の子(ここでは娘ユンのこと)など、考えられないことだと書かれている。それだけに母ナウさんはたくましくも厳しく、娘ユンにも容赦しなかった。その、徹底したしつけと母親の威厳も3部作のところどころで出てきては、「日本の母親、もっとしっかりせい!」とナウさんに言われているようで、読みながら頭をうなだれるのみ。

近藤氏とともに東京に連れて来られた時、ユンは13歳。東京にリセ(フランスの教育システムをとる中・高校)に転入し、フランス語での教育が始まる。数年後には近藤さんのバンコク赴任に伴い、東京での独り暮らし(リセの寮生活)が始まるが、その間のことは『バンコクの妻と娘』に詳しい。その後、ユンは、東京での生活を楽しみながら学業では努力を重ねたようだが進級できなかった。

その時に、リセの校長からバンコクの両親に手紙が届く。曰く、「ミーユンに取って何よりも大切なことは、一つの文化を見る目を備えさせることだと考える。率直に申し上げて彼女には、今、何の文化的基礎もない。(中略)文化を知るということは、思考をするということであり、思考のための必須の道具は、言うまでもなく言葉である。」 
こうして「思考の道具となる言語をもつこと」というリセの校長の親身な助言が、ユンの親である近藤氏に向けられる。東京のリセよりバンコクのリセに転校したが、バンコクのリセ閉鎖に伴い、フランスに渡る。そこまでの様子が、『バンコクの妻と娘』『パリへ行った妻と娘』に書かれている。特に、『パリへ行った妻と娘』では、ユンの進路選びを軸に、タイのリゾート地で知り合ったフランス人家庭(ルロワ家)、ユンがパリのルロワ家にお世話になるいきさつ、ルロワ家の息子ピエールとユンの行く末を案じる両親の思いが描かれている。父親の近藤さんは「ままごとのなのか、それとも真物なのか」判断しかねると案じていた二人だったが、『パリへ行った妻と娘』のあとかぎで、二人は結婚に向けた準備をしていると読んだ時は、読者は一様にほっとしたことだろう。それでも、結婚は近藤さんの喪が明けるまで結婚してはいけないとの母親の厳命により、2年待ってのことだった。この3部作を通して読者は、ユンちゃんの成長過程と悩み、葛藤、もがく姿を追いながら、それぞれに笑い涙した。

そのユンちゃんだが、昨年、JAL機内誌でユンちゃんについて読む機会があった。近藤紘一の足跡をたどる連載「美しい昔 近藤紘一が愛したアジア」の最終回だった。近藤紘一氏は胃がんのため1986年に45歳の若さで他界している。
(続)

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Re: No title

コメントありがとうございました。残念ながらベトナム戦争時の近藤氏の取材記事を知らないのですが、近藤ファンとしては迫力ある追随を許さない取材ぶりが想像できる気もします。作品では終の棲家を求めていたナウさんの、近藤氏亡き後のその後が少し気になっていました。おそらく、彼女のたくましく生きる姿勢や考え方に共感しながらも、10代の子どもに彼女ほど徹底して厳しくしきれていない自分を歯がゆく情けなく感じているからだと思います。

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Sainah

Author:Sainah
仕事&興味:途上国と開発援助 [セクター] 農業・自然環境・生態系
少数民族、伝統文化、科学・技術、時間管理、組織マネジメント、外国語(☜ 日本語とあわせて日々奮闘中)、海より山、温泉、古いもの好き、ABBA、中島みゆき

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