私なりのこだわり


(少し間があいてしまいましたが、ここ数回は近藤紘一氏の『サイゴンから来た妻と娘』に始まる3冊の本について書いてきました。)



一時の留学を除けばずっと日本の教育を受け、帰国子女でもないのに私自身、ここまで近藤さんの本に引き込まれ、ユンをめぐる無国籍人間にならないための教育や言語をめぐる著者の奮闘ぶりに共感したのはなぜだろうか。

まずは、ここまで娘の将来に思いを馳せ頭を悩ます父親の心境や思考を、読んだことがなかったからだと思う。東京のリセの校長からの手紙は、著者の思いを凝縮しており、まさに圧巻である。世のどんな父親でも自分の娘の将来を考え応援する気持ちは持ち合わせているだろうが、ここまで具体的かつ、ある意味、海外で生きる/国際結婚の家庭の親子にとって普遍的な問題としても訴えかける内容になっている。また、私自身ベトナムで過ごした2001年のひと夏の印象があまりに強烈だったことに加え、仕事で使う言語に考える時期と重なったことがもう一つの理由ではないかと思う。



私は最初、自然科学の教育を受けた。学生時代、指導教官には論文は英語でないと存在しないに等しい、と叩きこまれた。サイエンスの世界にいたから至極もっともな話ではあるのだが、1990年代当時は大学院の修論、博論はもとより、いわゆる学術論文も日本語で書く「研究者」が少なからずいた時代である。その指導教官は米国の大学から戻ってきたばかりの先生だったこともあり、最初から学生へは「論文書かずば研究者ではない。英語で書かずば論文ではない」の持論を展開し、学生にもそう教え込んでいった。その結果、我々は修論から英語で書かされたし、目指すは学術雑誌に受理される(英語の)論文であり、学位申請用にまとめる日本語の博士論文ではない、と教え込まれた。だからであろう。私自身のみならず同じ研究室の学生は、「研究者とは論文を書くのが仕事であり、論文は英語で書かれるもの」と刷り込まれていた。

後に、国際協力の世界に転じてから、日本では、どうも研究者だからといってみな英語で文章を書くわけではないと理解するのに時間はかからなかった。それどころか、日本語で、しかも小難しい、ややもするとわかりにくい日本語も飛び交っていた(たまたまその時は社会学の話もあったからかもしれないが)。そういう日本語に違和感を覚えたし、だからといってサイエンスの世界ではほとんど日本語で長文を書くことはないから、日本語の文章力を鍛える必要も感じた。結果、日本語と英語をどう磨いていくかが、個人的な課題となっていた。

それでいて、書き言葉だけならまだしも、日本語と英語ではプレゼンテーションの仕方も、主張の展開の仕方されも違ってくる。となれば、日本で教育を受けた研究者はどうすればいいのか。いまのようにインターネットにも普及しておらず初期の時代、限られた情報源の中で英語で生きるべきか、日本語で生きつつ、仕事の時だけ英語脳に切り替えることも求められるのか、なぜ日本人に生まれたんだとまで考えたこともあった。

結局至った結論は、ずっと後になってのことであるが、木下先生の「言葉のスウィッチ・ヒッターであれ」である。知らない理系学生はいないほどの『理科系の作文技術』の著者でもある物理学者が、後年書かれた別の本にあった「言葉のスウィッチヒッターであれ」――これがもっとも腑に落ち、以来、私の指針となっている気がする。

ここでいう言語のスウィッチヒッターとは、「欧米式の言語習慣が優先する場では、客観的かつ論理的に明快に話す。それは日本人の従来の言語を忘れることではなく、日本人同士の私的なコミュニケーションでは伝統的な言語習慣を大切にする」人のこと。機に応じて右でも左でも打てる打者になれ、という教えだった。

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スウィッチ・ヒッター
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Sainah

Author:Sainah
仕事&興味:途上国と開発援助 [セクター] 農業・自然環境・生態系
少数民族、伝統文化、科学・技術、時間管理、組織マネジメント、外国語(☜ 日本語とあわせて日々奮闘中)、海より山、温泉、古いもの好き、ABBA、中島みゆき

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