スウィッチ・ヒッター


文章の指南書ともいえるロングセラー『理科系の作文技術』を手にしたのはもう、はるか昔の学生時代。この著者の本を最近また読んでみたが、文章を書くことに正面から取り組む姿勢に、心打たれた。これほどまでに、書きことばへのこだわりを一貫して示し、あとに続く日本人への思いと期待を込めた本をほかに知らない。著者の木下是雄先生は、物理学者。それがまたうれしい。書くのは文系の専売特許であり、理系は書けないといった向きもあるようだが(←結構こだわっている?)、どうしてどうしてこの先生のように、書き言葉に最大限の注意をはらっている学者がいわゆる文系の先生だけに多いとも、とても思えないのだ。

今日は、最近読んだ1冊(『日本語の思考法』)のなかのくだりについて。

ビジネスや国際会議において、欧米式の言語習慣が優先する。これはやむを得ない。自然科学もそういう土壌で育ってきたので、影響は免れない。
ここでいう欧米式の言語習慣とは、著者の言葉を拝借すれば、次のAとBとなる。
A. 正確に、客観的事実を伝える
B. 明確に、論理的意見を述べる
このため日本人の話し方はもっと、「もっと簡潔に(余計な敬語や前置きは省き)、また婉曲よりも明解・直截を旨として、できるだけ明確に」となるべきた、となる。

しかし、とここで木下先生は続ける。ここはそのまま引用するしかない。

「しかし言語活動には、ビジネスの面だけでなく、人と人の交わりという大切な側面がある。この面での日本人同士の応対は昔のままにしておきたい――少なくとも意図的に変えることは避けたい――と私は考える。人と人との私的な交わりの面で、もっぱら相手を立てようとし、婉曲で間接的な表現を好むならわしが失われれば、それは日本人のアイデンティティーの喪失に通じかねないのである。私の念願は、これから巣立つわかい人たちが、仕事の面や国際交渉の場では明快・明確にズバリと発言し、日本人同士の私的な交際では察し、察せられあう優美なもの言いができるように育ってくれることだ。これはかれらにことばのスウィッチ・ヒッター(機に応じて右でも左でも打てる打者)になってもらいたいということである。」

う~ん
読み進めるとさらにもう一度、たたみ掛けるように似た箇所が出てくるが、今度は「念願」なんてもんじゃないトーンになっている。

「国際化時代のいま、私たちは必要に応じてA、Bに示したものの言い方ができるようにならなければならないのだが、一方で日本人同士の私的なコミュニケーションでは伝統的な言語習慣を大切にしたい。つまり、機に応じてものの言い方を切りかえるスウィッチ・ヒッター(右打者でも左打者としても打てる打者)になるほかないのが国際化時代に生きる私たちの宿命なのだ。」

筆者がここでいうA、Bとは、欧米式の言語習慣の特徴にほかならない。つまり、

A. 正確に、客観的事実を伝える
B. 明確に、論理的意見を述べる

C. いきいきと心情をつたえる

言うまでもなく、このCが母国語ではじめて可能となるのだろう。これが、この本の読者の場合、まぎれもなく日本語であるし日本語しかない。

ことばのスウィッチ・ヒッター、これぞ我々の目指す道。名言だと思う。
ああ、ナント長くて険しい道・・・。
立ちはだかる壁は、絶壁とはいわないが、急峻な山道か峡谷のようである。
が、がんばります

それでもブログを書いているときは、このことは半ば忘れて書いていたい。ブログモードの目指すはCですかね、きっと。

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プロフィール

Sainah

Author:Sainah
仕事&興味:途上国と開発援助 [セクター] 農業・自然環境・生態系
少数民族、伝統文化、科学・技術、時間管理、組織マネジメント、外国語(☜ 日本語とあわせて日々奮闘中)、海より山、温泉、古いもの好き、ABBA、中島みゆき

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